個人事業主は仕事に関わる全てを自分でしなければなりませんが、中にはそれだけでなく確定申告のための必要な会計業務も自分自身で行っておられる方がいます。ただでさえ大変な作業を日々こなしている個人事業主は少しでも税金を抑えたいと考えるのは当然かもしれません。

仕事で使うものであれば当然経費として計上するのですが、経費として計上しても良いのかどうか悩んでしまうものもあります。例えば、仕事で使うスーツや靴などは経費として計上できるのでしょうか。経費として計上できるかどうかを判断するためには考え方も重要になります。では、スーツを例に考えてみましょう。

個人事業主はスーツを経費として計上できるのか

まず、経費として計上できるものについて考えてみましょう。所得税法によると家事上の経費は必要経費に算入できないと定義されています。家事上とはプライベート使用のことですが、仕事以外でスーツを着る機会は普通の人にはあまりないでしょう。では、スーツは経費として計上できる、ということでしょうか。

残念ながら所得税法の続きの部分には家事関連費も経費として認めないと記載されています。家事関連費とは仕事とプライベートとの両方に関わる費用のことです。そうなると、スーツはプライベートでも使用することができるために経費としては計上できないこととなってしまいます。

加えて、過去に個人事業主のスーツ代は経費として計上できるのかが争われた裁判がありました。その裁判はスーツ代だけでなく、クリーニング代や散髪代なども含めて争われた裁判だったのですが、判決は経費として認められないというものでした。

理由としてはそうしたものは個人事業主のみに関わらず、全ての人に必要な事柄であること、そして個人の趣味によってかかる金額に大きな差が生じることなどが挙げられていました。確かにこの判例は理にかなっているように思われますが、中には本当に仕事以外ではスーツや革靴を使用しないという個人事業主もおられると思いますし、そのような場合には納得できない判決かもしれません。

特定支出控除という新しい制度

平成26年に特定支出控除という新しい制度が制定されました。これは給与所得者、つまり会社員に適用される制度ですが「会社員が自費で購入したスーツや靴が業務上必要なものであれば経費として認めます」という制度です。

この制度の中には通勤費や転勤費用、研修費などが含まれていますが、今考えているスーツ代に相当する衣服費、さらにはビジネス上必要となる接待交際費なども含まれています。

しかしこの新しい制度は控除を受けるためのハードルが高く、実際に利用している会社員はほとんどいないのが現状です。例えば、年収500万円の会社員が控除を受けるためには77万円の経費を使ってはじめて適用されるようですが、年収500万円の会社員はそこまでスーツにお金をかけることはないでしょう。

そのため、この新しい制度はほとんど利用されていないようです。しかし、この制度によって個人事業主が購入したスーツも経費として計上できるのではないかと考えられるようになってきています。

個人事業主が購入したスーツが経費として認められるには

では、個人事業主が購入したスーツを経費として計上するためにはどのような条件が必要なのでしょうか。まず最初にスーツ購入の目的が明確であることが必要です。

先に考えたように、所得税法には家事関連費は経費として認められませんと明記されていますが、国税庁のホームページを見てみると家事関連費のうち業務上明らかに必要であったと区分できるものに関しては、その区分に応じて経費として計上できるということが説明されています。

つまり、スーツであっても業務上必要なものであるということが明確にされていれば経費として計上できる可能性があるようです。購入したスーツが業務上必要なものであることを明らかにするためにどんなことができるでしょうか。例えば、仕事で使うスーツは事務所などの仕事場で保管し、一種のユニフォームであるかのように扱うことができます。

また、税務署などから説明を求められた時、プライベートでのスーツと仕事用のスーツを分けていることがわかるような写真などの記録を残しておくこともできるでしょう。営業や取引などでスーツが必要な職業であれば問題ないと思われますが、業務上スーツの必要性があまり明確でないような場合は特に注意が必要です。いずれにしても、きちんと説明することができるように記録を残しておくことが重要です。

さらにスーツを経費として計上する場合は按分計算をして計上するようにしましょう。自動車を購入する場合などは、その自動車が100パーセント業務のみに使用するものでない場合には按分計算で経費を算出します。同じように、仕事で使うスーツも仕事で使う分だけを経費として計上すると良いでしょう。

多くの場合、一週間における平日が仕事の日になりますので、全費用の7分の5を按分として算出します。7万円のスーツでしたら5万円といった具合に計算できるでしょう。

もう一つ注意しなければならないのはあまりにも高価なスーツを何点も購入するような場合です。どうせ経費に計上できるのであればと調子に乗って高額なスーツやアクセサリー、時計などまで購入したような場合、経費で計上するのは難しくなるでしょう。

大切なのは先に考えたように、業務上必要であることが明確な場合にのみ経費として計上できるという点です。税務署に聞かれても、納得のいく説明ができなければ経費として計上することはできないでしょう。

スーツを経費として計上する際の仕分け

では、スーツが業務上必要な個人事業主はその経費をどのように仕訳することができるでしょうか。先ほど考えたようにスーツなどの費用は按分計算をして計上することになるでしょう。さっきの7万円のスーツを例に考えてみると、勘定科目は消耗品費として仕訳できます。

借方には5万円を計上します。差額の2万円はプライベート利用であることを表すために事業主貸とします。そして貸方に現金7万円、というように仕訳することができるでしょう。家事関連費としてスーツ代を計上するわけですが、金額が小さいものであれば勘定科目を雑費にしても問題ないと思われます。

このように業務上必要なものであっても、スーツのように経費とできるかが微妙なものについては消耗品費と事業主貸というように、業務上の経費とプライベート使用とをしっかり按分することは大切です。そのようにしておくことによって税務署にしっかりと説明できる形を作ることができるからです。

そのもちろんこの按分計算は一週間のうちの五日間スーツを着用した場合という計算になりますので、業務によって按分計算は異なってくることを忘れないように注意しましょう。

まとめ

個人事業主が仕事のために購入したスーツや靴は経費として計上することができるのでしょうか。それらのアイテムが業務上必要なものであるということが明確であれば経費として計上できる可能性があります。

そのためには業務上必要なものであることを示す明確な説明ができること、全額ではなく按分計算をして必要な費用だけを経費として計上すること、そしてあまりに高額なものではなく常識の範囲内の金額であることなどが大切です。

こうした考え方はスーツや靴だけにあてはまるものではないので、確定申告を自分で行う個人事業主は根底にある考え方とルールをしっかり銘記しておくと良いでしょう。簡単に経費の仕訳をするには、会計ソフトの利用をおすすめします。

現在のクラウド会計アプリは、機能が充実していて領収書などをスマホでスキャンして登録してくれ、クレジット払いの経費も自動的に帳簿付けしてくれるアプリもあります。個人事業主はそのようなアプリの使用を検討するのも良いかもしれません。

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